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昔々、
あるところに
不思議な力を持った
とても心優しい女の子がいました。

女の子は手を使わずに、
物を運ぶことができました。

遠い昔の、
過去に起こったことや、
遠い未来の、
これからおこることがわかりました。

人のケガを治すこともできました。

大人たちは、
女の子を気味悪がりましたが、
女の子の友達は、
そんなことを思ったりしませんでした。

女の子の友達が、
寒いと震えているときは、
女の子は
自分の洋服を貸してあげました。

女の子の友達が、
お腹が空いたと泣いているときは、
女の子は
自分のご飯を分けてあげました。

女の子の友達が
ケガをしたときには、
女の子はそのケガを
治してあげました。

女の子の友達は、
心優しい女の子が大好きでした。

*****

ある日、
大人の1人が言いました。

「手を使わずに物を動かすなんて、
バケモノじゃないか」

すると、
別の大人も言いました。

「ケガだって治してしまうんだ。
そんなの人間じゃない」

それを聞いた大人たちは、
次々に言い出しました。

「私たちにはない力を持つあの子は危険だ」

「もしかしたら、
僕たちを殺してしまうことだって
できるかもしれないんだ」

「周りの子供たちも、同じ力を持っているのかも」

「私たちは、子供に殺されてしまうのか」

「毎日怯えて暮らすなんてご免だ」


「殺される前に、殺してしまおう」


*****

そうして、
ある日の夜。

女の子と、
女の子の友達が
森の中の小屋に集められました。

この小屋は、
村から離れていて、
周りには森の木々以外、
何もありませんでした。

小屋の中には、
子供たちが大好きな
甘いお菓子やおもちゃが
たくさんありました。

子供たちは喜んで、
小屋の中へ入って行きました。

甘いお菓子を食べたり、
おもちゃで遊んだり、
楽しく過ごしていましたが、
女の子だけは
1人で悲しそうにしていました。

女の子は、
どうして自分たちが集められたのか、
そして、
これから何が起こるのか、
すべてわかっていたのです。

しばらくして、
遊ぶ疲れた子供たちは1人、
また1人

眠っていきました。

子供たちが皆眠って、
小屋の中が静かになった真夜中、
大人たちが動きだしました。

子供たちが居る小屋に、
火をつけたのです。

窓のない小屋は、
扉の鍵がしっかりと閉められていて、
逃げることはできません。

熱さや息苦しさで
目を覚ました子供たちは泣きました。

「助けて、熱いよ」

「息ができないよ」

けれど、
どんなに助けを求めても
大人たちは
助けに来てはくれません。

もう、
大人たちの手では
どうすることもできないくらい、
炎が広がっていたのです。

燃え盛る炎の中、
煙に巻かれながら、
助けを求める子供たちの中で、
女の子は思いました。

――私は、生きてちゃいけないのかもしれない――

――私がいなければ、皆がこんな目に遭うこともなかったはず――

――私がいなければ、皆が大人たちに嫌われることもなかったはず――

――私がいなければ、皆は大人たちと仲良く幸せに暮らせていたんだ――

そして、
女の子は神様にお願いしました。

「私の命はどうなってもいいから、
どうか皆を助けてください」

女の子は、
大人たちを恨んだりしませんでした。

女の子は、
大人たちのことも、
友達と同じくらい大好きだったからです。

もしも今、
皆が死んでしまったら、
そう遠くない未来で、
大人たちが後悔して悲しむことを、
女の子はわかっていました。

だから、
女の子は強く願いました。

『皆を助けてください』

と。

友達だけじゃなく、
大人たちも皆。

すると、
燃え盛る小屋を
強い光が包み込みました。

炎とは違う、
優しくて温かい光です。

大人たちも子供たちも、
眩しくて目を閉じました。

けれどすぐに光は弱まって
消えていきました。

小屋を包んでいた炎と一緒に、
消えていったのです。

光がすべて消えたとき、
大人たちは涙を流しました。

「何てことをしてしまったんだ」

と、
誰かがぽつりと
言いました。

あの、
強い光に目が眩んだとき、
大人たちは、
女の子の優しさに触れたのです。

女の子の
『大好き』
という気持ちが届いたのです。

『皆を助けて』
という声が
聞こえた人もいました。

ある人には
『ごめんなさい』
という声が
聞こえていました。

「そうだ……。助けに行かなければ」

誰かが言いました。

そうだ、そうだ、

大人たちは小屋に近づき、
焼けた扉をこじ開けました。

大人たちが中を覗き込むと、
そこにはひと所に子供たちが集まっていました。

そして、
その子供たちの真ん中には
女の子が横たわっていました。

女の子は、
誰が何度呼びかけても、
目を開けてはくれませんでした。

女の子は、
永い眠りについたのです。

それから、
大人たちと子供たちは幸せに暮らしました。

眠りについた女の子に守られて、
寒さに震えることも、
空腹に苦しむこともなくなりました。

けれど、
女の子はずっと眠ったまま。

今でも、
女の子は眠り続けているのです。

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シリーズ作品
2.∮守り姫の夢∮ 3.∮守り姫の待ち人∮
関連作品
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イラスト ホーム
橘ゆら 様
林檎日和
https://leopard66rt.wixsite.com/yura
公開 内容
2017年11月~ 第1弾 動画用イラスト
2018年8月~ 第2弾 動画用イラスト
お力添えに感謝いたします