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昔、永い眠りついた女の子がいました。
その女の子がいる村は、
女の子の不思議な力に守られて、
寒さに震えることも、
空腹に苦しむこともなく、
皆が幸せに暮らしていました。
けれど、
女の子は長い眠りについたまま、
目覚めることなく、
終わることのない永い夢を
見続けていました。
女の子のところへは、
毎日1人の男の子が訪れていました。
男の子は、
眠ったまま目覚めない女の子を起こすために、
毎日通っていたのです。
女の子が眠ったばかりの頃は、
たくさんの人が女の子のもとを訪れていました。
けれど、
一向に目覚める様子のない女の子に、
女の子を訪れて来る人は、
1人、また1人、
と減っていき、
今ではこの男の子
1人だけになってしまいました。
男の子は毎日、
女の子に話しかけました。
「今日はとても天気がいいよ」
「広場でゲームをしたんだ」
「キミも一緒だったら、もっと楽しかったのに」
「いつまで眠っているの?」
「早く起きて、ボクたちと一緒に遊ぼうよ」
けれど女の子は眠ったまま、
目覚めることはありませんでした。
「また明日来るね」
そう言って、
男の子は毎日帰って行きました。
*****
ある日、
男の子がいつものように
女の子のもとを訪れると、
いつもと様子が違っていました。
眠る女の子の身体が淡く光っていたのです。
男の子は、
もしかしたら女の子が目覚めるのかもしれないと、
期待を込めて女の子に触れました。
すると……。
*****
男の子の周りが
眩しい炎に包まれました。
熱く燃え盛る炎の中、
苦しくて焼けてしまいそうな炎の中で、
男の子は声を聞きました。
「助けて、熱いよ」
「息ができないよ」
助けを求める、
子供たちの声でした。
そしてもう1つ、
助けを求める声とは別の声を
男の子は聞きました。
「皆を助けてください」
女の子の声でした。
苦しくて薄れていく意識の中、
一心に祈る女の子の声を、
男の子は聞いたのです。
そのとき……。
*****
男の子は目を覚ましました。
周りには、
いつもの景色と静かな時間が流れていました。
男の子は眠っていたのです。
男の子が見た、
熱い炎や聞こえてきた子供たちや
女の子の声は、
すべて夢だったのです。
けれど、
ただの夢ではありませんでした。
「今のは、キミが見ている夢なんだね」
男の子は、
眠り続ける女の子に言いました。
男の子が見た夢は、
女の子が見続けている夢だったのです。
女の子は永い夢の中で、
熱い炎の中、
煙に巻かれながら、
一心に祈り続けていたのです。
男の子は言いました。
「もう火は消えたよ」
「皆助かったんだよ」
「だからもう起きてよ」
けれど女の子は眠ったまま、
目を覚ますことはありませんでした。
それでも、
男の子は諦めませんでした。
「きっと起こしてあげる。熱い炎の中から、絶対助け出してあげる」
今でも男の子は、
女の子を助けるために、
毎日女の子のもとへ通っているのです。
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