<音石舞華>
某日。
電車を降りて、駅のホームから人の流れに従って改札口へと向かう。
混雑する改札口の向こう側。行き交う人たちの中に、彼女――由梨亜を見つける。
柱に背を向けて、手元のスマホに視線を落とす由梨亜が私の視線に気づいたのか顔をあげる。
お互いに手を振りあって、心なしか私の頬は緩む。
改札を抜けて、近づいて行く。
「久し振りー!」
どちらからともなく声をあげて、手を取り合う。
「じゃあ、行こっか」
言って、再び改札口へと向かう。
今度は、由梨亜も一緒。
「……あれ? 舞華、改札出なくて良かったんじゃない? すぐ入り直すならさ」
「……あ」
そう言えばそうだ。
今日の目的地まで、お互いの駅から中継地点になるからこの駅で待ち合わせにしたけど、そうか。出なくても良かったな。
「まあ、そんなこともあるよね」
「そうだね」
「それよりホームどこだろ」
「こっち」
迷いなく人の間をすり抜けて行く由梨亜について行く。
たぶん、待っている間に確認していたんだと思う。
こういうところ、さすがだなあ。
「あった、あれ」
由梨亜が示す先には、目的の電車が来ることが示された電光掲示板。
「さっすが由梨亜!」
「ここの駅なら任せて!」
こうしていると、由梨亜だなあって思う。
テレビに出てても、雑誌に出てても、そんな由梨亜はカッコ良くて尊敬もするけど、私にとっての由梨亜は幼い頃からの大親友。
「最後に会ったのいつだっけ?」
由梨亜に振られて考える。
「2ヶ月……3ヶ月くらい前?」
「結構経ったねー」
「だって由梨亜忙しいから」
「まあ、ね」
否定はされない。
由梨亜の活躍を見ていれば、忙しいのは簡単に想像できる。
「そんな由梨亜にお土産ですっ」
「え?」
持って来ていた紙袋を由梨亜に手渡す。
「何持って来たのかと思ったら。いいの?」
「もちろん。開けてみて。絶対喜ぶから」
「えー? 何だろー?」
袋の中に手を入れた由梨亜が中身を取り出す。
「えー! 行って来たの!?」
その手には、とある作家さんのイラストが描かれたポストカード。
なんて言ったって、由梨亜とはオタク仲間でもあるから。
「ちょっと旅行ついでに寄って来たんだ。せっかくだから由梨亜にもお裾分け」
「ありがとう! 嬉しい! でもいいの? 私、何もお返しできないよ?」
「いーのいーの。由梨亜頑張ってるし、今日も時間作ってくれたし、それにいつか一緒に旅行に行くって約束があるんだから」
「それじゃあお返しにならないんだけど。私が楽しいだけじゃん」
そう言って笑う。
「でも行こうね。旅行」
「うん、行こう」
どんなに年を重ねても、お互いに全然違う仕事に就いても、由梨亜がどんなに有名になったって、由梨亜は由梨亜。
私の大事な大親友。
***END***
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