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優しさの理由
01 夢ミル 未来
夢をみた。
やさしくて、幸せな夢を。
目が覚めると、やわらかなベッドの中。
小鳥のさえずりが、朝がきたことを知らせる。
太陽の光がカーテンの隙間から射し込んで、ドアまで続く細い道をつくりだす。
やわらかいカーペットは、転んでもケガをしないように。
ぬいぐるみは、ひとりでも寂しくないように。 絵本はいつでも好きなときに取り出せるように、棚の1番低い位置に。
綺麗に整頓された子供部屋。
「わたし」の部屋。
部屋を出ると、漂う匂い。
焼けたパン、あたたかなスープ、シャキシャキのサラダ、ヨーグルト。
用意された朝食が、テーブルに並ぶ。
大きな窓には、澄んだ青い空がどこまでも果てなく続く。
射し込んでくる光が照らす真っ白な室内には、室内置きの植物が彩(いろどり)を与え、パパとママが仲睦まじく寄り添う。
実際に口にしたことはないけれど、ママがパパのために用意するコーヒーの匂いが好き。
それは、優しいパパの匂い。
ママは、花の匂いがする。
あったかい、匂い。
「わたし」に気がついた2人は、そっと言葉を口にして手招く。
「――」
その言葉は何度同じ夢をみて、何度繰り返されても音となって「わたし」の耳に届くことはないけれど、迷うことなく「わたし」は2人の傍へと歩み寄る。
2人が口にする言葉は、「わたし」を示すものだとわかるから。
2人は「わたし」を迎え入れ、抱きあげる。
「おはよう」
と、2人は笑った。
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