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愛を胸に眠る
04 みさき
彼女が、いなくなった。
「ごめんね」と言い残して、姿を消した。
最後に見た彼女の表情は、とても悲しそうな、辛そうな、今にも泣いてしまいそうなものだった。
そんな彼女の表情に、ぎゅうっと心臓が締めつけられるような気がして、苦しくなった。
「泣かないで」と言ってあげたかった。
彼女が私にしてくれたみたいに、ぎゅっと抱きしめて、よしよしと頭を撫でてあげたいと思った。
だけど、そんな間もなく彼女は行ってしまって……。
伸ばしかけた手が、触れるものはなかった。
そして、彼女は戻って来なかった。
彼女じゃない大人がご飯を持って来て、イジワルをして、私が泣いて、大人がガッカリして、私はご飯を食べて……。
彼女は戻って来ない。
積み木を積んで、昨日より2つ多く積んだ。
褒めてくれる声はない。
彼女は戻って来ない。
紙の上に線を引く。
ぐるぐる、ぐるぐると丸を描く。
褒めてくれる声はない。
彼女は戻って来ない。
また、彼女じゃない大人がご飯を持って来て、イジワルをして、私が泣いて、大人がガッカリして、私はご飯を食べて……。
彼女は戻って来ない。
部屋が暗くなって、布団を被って。
隣に一緒に寝てくれていた彼女はいない。
いつになっても彼女は戻って来ない。
彼女はきっと、私といることが嫌になったのだと、深く考えることなくそう思った。
キライ。
私はずっと、そう思っていた。
「みんな」が知らない幸福を、私に教える彼女がキライ。
だからこれは、起こるべくして起こった当然の結果なのだと思った。
彼女がいなければ、私が幸福を感じることはない。
「みんな」が知らない感情を、私だけが感じることはない。
これでいい。
そう思っても、押し寄せる悲しさと、寂しさは、彼女のことを未練がましく思い出させた。
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