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優しさの理由
02 死シテ 生マレテ

 ママの身体がオカシクなった。

 たくさんのイタイと、たくさんのクルシイが、ママをイジメる。

 たくさんの気配が、あちこちへと動く。
 ピリピリとした空気が、不安にさせる。

 ママの心が恐怖に震える。
 コワイと怯えるママの心が、「わたし」へと伝染する。

 襲いかかる恐怖を打ち消すには、どうすればいい?

 恐怖に勝つ方法が、ママを助ける方法が、「わたし」にはわからない。

「ユキ」

 声が聞こえた。

「ユキ、ユキ」

 慌ただしい音の中で、はっきりと聞こえたその声はパパのもので、何度も繰り返されるその声に安心した。

 パパが傍にいるのだと、ママがパパを信頼していたから。

 パパがいるから大丈夫。

 ママの心がそう思った。

 パパの手が、「わたし」を撫でた。

 大丈夫だと、心からそう思った。


 だけど――


 ママを苦しめている原因が、「わたし」だと知った。

 「キョージュ」という人が、一生懸命にママを診ていた。

 ママを助けて。

 「わたし」はずっとずっとお願いしていた。

 だけど、知ってしまった。

 「キョージュ」が、「わたし」に言った。

「お前がいるせいなのか」

 って。

 本当は、「キョージュ」のひとり言にもならない心の声。
 だけど、「キョージュ」は確かに心の中でそう呟いていた。

 「わたし」のせいだ、って。

 「わたし」がいるから、ママが苦しんでいる。
 「わたし」がいるから、ママの苦しいが終わらない。

 なのに――

「何も問題はないよ」

 「キョージュ」はそう言った。
 ママは「キョージュ」の言葉を信じた。
 誰も、「キョージュ」の言葉を疑ったりはしなかった。

 どうして?

 その不安を拭い去ってくれる人は、誰もいない。

 「わたし」の存在が、ママの身体を苦しめていると、「わたし」と「キョージュ」だけが知っている。

 ママの身体が弱っていく。

 「わたし」という存在が、ママの身体を蝕んでいく。

 わかっていても、「わたし」には何もできない。

 ママを苦しめているのは「わたし」なのに、ママは変わらず「わたし」に安らぎをくれる。

 それがとても、クルシイ。

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