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優しさの理由
04 遠イ 背中
01年3月30日。
「キョージュ」が新しくつくりだした325個の個体が成長を始めているのを感じ取ったのと同時に、それとは全く正反対の感覚が「わたし」を――「わたしたち」を襲い始めた。
生に向かって生きる325個の意識とは正反対に、死に向かう27個の感覚。
それぞれが、それぞれに衰弱し、生きる力を失っていった。
それはまるで、新たに誕生しようとしている彼らが、「わたしたち」から生きるための力を奪い取っていっているかのように思えた。
初めに、その姿を消したのはZのラベルの水槽の個体だった。
言葉の通り、彼は消えた。
光となり、出ることの叶わなかった水槽のガラスをすり抜け、彼は消えた。
彼がいた水槽には、何も残らず、本当の意味で彼はこの世界から消えた。
それが、「わたしたち」の死なのだと、理解した。
「わたしたち」は、この地球上に生きるモノたちのように、その亡骸を残すことはないのだと。
彼が消えたあと、「キョージュ」がそれに気が付いたのは、彼が消えてから3日経ってからだった。
彼が誰かに盗まれたのか、それとも「あの姿」で逃げ出したのか、「キョージュ」はそんなことを口走っていた。
けれど、設置されていたカメラがそれを否定した。
「キョージュ」は興味深そうに、残された映像を見つめていた。
その日から、「わたしたち」を見るレンズの数が増えた。
ただ、死に逝く姿を映すためだけのカメラが心なく「わたしたち」を見る。
「キョージュ」が見るのは、カメラに映された映像だけ。
直接、「わたしたち」を見ることはなかった。
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