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優しさの理由
04 遠イ 背中
それからまた何日かが過ぎて、何日もが過ぎて、26個体だった「彼ら」は半分の13個体になっていた。
13個と1個の人間になれない「わたしたち」が並ぶこの室内には、「キョージュ」以外の人の出入りが増えた。
彼らが見るのは、325個の個体たち。
人間のカタチになれる可能性のある個体たち。
死に逝く「わたしたち」のことは気にも留めない。
――いや、それは嘘だ。
彼らは、気にしていないフリをしているだけだ。
彼らはいつも「わたしたち」を見て、不気味だと怯えているのだから。
325個の個体もほとんどが「わたしたち」と同じように人間のカタチを形成しないモノだった。
けれど、325個の個体のうち、17個の個体が人間のカタチへとなり得る片鱗をみせていた。
この部屋に出入りする人たちは、「キョージュ」も含めて皆、毎日その17個の個体を見ては日々記録をつけていた。
AI、AO、BE、BI、CI、CO、CU、DI、DO、FU、LI、RI、RO、RU、SI、TO。
彼らに関する記述だけが、日に日に厚みを増していく。
彼らは――彼らだけが、望まれる人間のカタチになり、生まれることができるだろう。
どこかしらの欠損があることは確かだけれど「わたしたち」よりは人間らしい姿になれる。
特に、AIと書かれたラベルのあの個体は、もっとも望まれている、人間のカタチを持つ個体そのものだ。
「わたし」が、「彼女」だったなら。
そんなことを思ってしまう。
少なくとも彼女は、ただ死の瞬間を収めるために記録をつけられる「わたし」とは違い、その存在を望まれているのだから。
今日も、誰も「わたし」を見ない。
おぞましいと思う、人間の姿とはかけ離れた「わたし」。
どうして。
「わたし」はここにあるどの個体よりも、もっとも自然な人間のはずなのに。
人間の手によって、意図的につくりだされた存在じゃない。
ごくごく自然に、この地球上にあるあらゆる生き物に起こり得る、当たり前のような奇跡でこの世界に生まれるはずだった。
ここにある個体の誰よりも、純粋な人間の成分を持っているのに。
完璧なまでに、人間と同じ成分で「わたし」の身体は構成されているのに。
この身体は人間にはなってくれない。
ただ、「わたし」は死ぬ。
それだけが、事実で、「わたし」に用意されている未来。
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