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優しさの理由
05 彼女 ガ 生マレ
01年12月29日。
26個あった個体はすべて消え、残されたのは「わたし」1人になっていた。
そして、その「わたし」ももうすぐ消える。
その瞬間は近い。
325個の個体も、人間のカタチを成せているものはほとんどなく、既にいくつかが消え始めていた。
その中で16個の個体がかろうじて人間らしい姿を形成できていた。
あるものは腕がなく、あるものは足がなく、あるものには目が、あるものには耳が、どの個体もどこかが欠損していた。
その中で、17個目の個体だけが完全に人間の姿を形成していた。
AIと書かれたラベルの水槽の中の彼女は、ここにいる人間たちの誰もが望む完全な個体としてその姿を保っていた。
人間の子供の姿で、彼女は水槽の中で眠る。
ときにはその手足を動かして見せ、普通の人間の子供と変わりない。
「キョージュ」たちは、毎日熱心に彼女の様子を見ては、水槽から出すタイミングを見計らっている。
水槽から出られなければ、人間とは言えない。
「わたしたち」には来なかった、水槽から出て、外の世界を知るという未来が、外の世界を人間として生きるという未来が、彼女に訪れようとしていた。
たとえそれが、彼女の望んでいない未来だとしても。
今日もまた、いくつかの個体が消えた。
けれど、「キョージュ」たちの興味は、既に「わたし」たちにはなかった。
いつ、何体の個体が消えたのか、その記録だけが映像として残るだけ。
「キョージュ」たちは、自分たちでつくりだした子供たちの行く末など、気にもしていない。
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