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優しさの理由
05 彼女 ガ 生マレ

 01年12月30日。
 ついに、彼女が水槽から出されるときが来た。

 彼女はこのときを以ってこの地球上に、人間として生まれたのだと認められる。

 彼女と同時に、他の16個の個体も外へと出された。


 初めに選ばれたのは、BIという個体。
 彼は手足こそなかったものの、人間らしい形成を行った個体の中で最も身体が大きかった。

 彼が選ばれたのは、それだけの理由。

 BIは、水槽から出されたあと、産声こそあげなかったけれどかろうじて生存することができていた。

 続いて出されたのは、RU。

 理由は女の子だったから。

 女の子の中でも、比較的身体の大きかった彼女が、2番目として選ばれた。

 彼女には、右腕と左足がなかった。

 彼女は、水槽から出されたあと微かに声をあげた。

 その声に気づいた人間はいなかったけれど、「わたし」にはちゃんと聞こえた。

 3番目に選ばれたのは、CO。

 彼には、両足がそろっていたけれど、両腕を得ることができなかった。

 そこで「わたし」は気づいた。
 人間のカタチに、より近い個体があとになるように出していっているのだと。

 初めは手足を持たず、次は右腕と左足、そして両足がそろったもの。

 次は、両腕がそろい、両足を持たないLU。

 両手足があっても、目を持たないDI。
 聴覚に欠損があるTO。

 そして、外部から見て明らかに欠損があるとわかる個体がすべて外へと出された。

 残るのは、内部に欠損が見られる個体と、「キョージュ」たちの言うところの完璧な個体のみ。

 RO。

 彼には、声を発する機能が備わっていなかった。

 けれど、彼は生きた。

 SI。

 彼女は、呼吸器というものの発達が行われなかった。

 呼吸をする機能を持たない彼女は、外に出されてわずか数秒足らずでこの地球を去った。

 CU。

 彼は、水槽にいる間1度としてその身体を動かしたことはなかった。
 彼には、自己の身体を動かすという機能が欠落していた。
 かろうじて、生命維持ができている程度。

 FU。

 彼女は、脳の作りが通常の人間とは異なっていた。
 それに加え、水槽の中ではときどきもがき苦しむような行動をとっていた。

 その度に、薬を使われ大人しくさせられていた。

 彼女が外へ出たとき、彼女は突如として叫び出し、そして消えた。

 産声ではなく、あれは間違いなく彼女の叫び声で、誰1人として気づくことはなかったけれど、彼女は自殺だった。

 この地球上で生きるよりも、自ら死して旅に出ることを選んだ。

 CIとDOも、FUと同じ道を辿った。

 彼らには、未来が視えていた。
 この先に起こる、彼らの未来。
 それは決して、優しいものではない。

 AO、BE、LI、RIは、外へ出されたあとも問題なく、先に出された個体たちの隣に並べられていた。

 そうして、最後。

 残る、AI。

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