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愛を胸に眠る
02 最後の ひとり

 私が生まれたとき、死んでしまった子がいる。

 それは、私が生まれるよりも前に生まれていた子。
 それは、私と一緒に生まれたはずの子。

 そして、一緒に生まれてもすぐに死んでしまった子もいる。


 私の生は、誰かの死と共に始まった。


 それから1年のときが経って、私と一緒に生まれた子も何人も死んでいった。

 最後に残ったのは、私。
 それから、ROのふたりだけ。

 ROは生まれたときから声を出すことができなかった。
 初めから、声を出す機能そのものを持つことができなかったから。

 どんなに声高く笑い声をあげたくても。
 どんな恐怖に叫び声をあげたくても。

 ROは声を発して、他人に自分の気持ちや考えや想いを、伝えることができなかった。

 だけどその代わりに、声を発さずに伝えることのできる能力を持っていた。

 触れるだけで、他人に伝える力――テレパシーだと大人たちは言っていた。

 これで声さえ出ていれば、完璧なのに、と。

 ROは不完全。
 それが大人たちの評価だった。

 そして私も、不完全。

 私には、手もある。
 足もある。
 見える目も。
 聞こえる耳も。
 音を出せる喉も口も。

 何もかもがそろっていて、それでいて不完全。

 何の能力も発現していない私は、不完全。

 何でもいい。
 何か1つでも、一緒に生まれて来た子たちのように、特別な能力を発現できなければ。

 例えばBIのように、床を離れて移動ができるとか。
 例えばDIのように、目で見なくても壁の向こう側がわかるとか。

 でも本当は、みんなその能力が必要だっただけ。

 床を離れて移動ができたBIは、両手と両足を持っていなかった。
 目で見なくても壁の向こう側を視ることのできたDIは、そもそも直に見える目を持っていなかった。

 何かが欠けている代わりに、手にしていた能力。

 生きるために、必要だった。

 けれど結局、その能力のせいで死期を早めてしまっていたのだけれど。

 大人たちは、それに気がつかなかった。

 興味もなかったのかもしれない。
 みんなは、不完全だったから。

 不完全の失敗作。

 能力があっても、認めてはくれない。

 腕がなければ。
 足がなければ。
 目が見えなければ。
 耳が聞こえなければ。
 声が出なければ。

 ここで生きるべき子供として、受け入れてはくれない。

 どちらもなければ、ここにいる意味はない。

 大人たちと同じ姿。
 大人たちが持っていない能力。
 大人たちが望んでいる能力。

 どちらかではいけない。
 どちらも持っていなければ。

 だから、私は完全ではない。
 不完全な私には、価値がない。


 だけど、まだわからない。

 時間が経てば、身体が成長すれば、何かの能力が発現するかもしれない。
 だって髪も目も肌も、他の子供たちと同じように普通ではないから。


 大人たちはそう言って、来るかどうかもわからない未来を期待して、私はただ生かされるだけの日々。

 そんな日々が、続いていた。
 これからも、ずっと続くと思っていた。
 変わることなく、ずっと。

 ROとふたりきり。

 そんな不確かな未来を、何の疑いもなく信じていた。

 私は今まで、何度も見てきていたはずなのに。
 何度も、何度も、私が生まれたあの瞬間から。
 今は一緒にいられても、明日も一緒にいられるとは限らない。
 瞬きをしたその瞬間、サヨナラのときが来るかもしれない。

 私たちの生命は、永遠じゃない。

 わかっていた、はずなのに――

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