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愛を胸に眠る
02 最後の ひとり

 ――ROは、もうすぐいくよ。

 声を出せないROが、私に伝えてきた心に動揺した。
 私の心に直接届く、その意味がわからないはずがなかった。

 キラキラと輝く光の粒。

 人の形をしていたものが、細かな粒となって空気中へと広がり、そして溶けて消えていく。

 それはとても綺麗な光景で、初めてそれを目にしたとき、私は無邪気に笑っていた。

 けれど、1度光の粒になった子が、もう1度元の人の姿を取り戻すことはなかった。

 空気に溶けたその場所に、何度手を伸ばしてみても、そこには何もなかった。
 声1つ、聴くことはできない。

 それが、私たちの死の姿だった。

 ――AI、ひとりになっちゃうね。

 嫌だった。
 ROが逝ってしまうことが。
 ROも逝ってしまうことが。

 みんな、私をおいて逝ってしまう。

 いやだ。
 いっしょに、つれていって。

 そう願っても、ROは首を振る。

 ――AIは、まだ、だよ。

 ROの言う意味がわからなかった。
 わかりたくなかった。

 まだ、一緒にいてほしかった。
 ひとりにしてほしくなかった。

 だけど時間は残酷で、ROが言ったように、そのときはすぐに訪れた。

 やだ。
 いやだ、いやだ、いやだ!

 いかないで!
 ひとりにしないで!

 どんなに願っても、どんなに涙を流しても、そのときは待ってはくれなくて。

 ――さよなら、AI。

 最期に見せた、ROの表情は笑っていた。

 いつも見せてくれていた、緩やかな笑顔。
 いつもと変わらない日常がそこにあるような、ありふれた日常の一幕であるかのような表情。

 ROが見せた死の瞬間は、彼の瞳と同じ橙色のやわらかで綺麗な景色だった。

 だけどこれでもう、私は本当にひとりぼっち――

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