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愛を胸に眠る
05 気がつけば ひとり

 美咲と出会って、2年が経とうとしていた。
 美咲は、出会った頃と変わらずに私とずっと一緒にいてくれている。

「みさき」

「なあに?」

 声をかければ、いつだって美咲は答えてくれた。

「どうして、あいなの?」
「んー?」
「みんな、えーあいっていうの。みさきがあいっていうの。どうして?」

 ずっと疑問だった。
 大人たちはみんな私をAIと呼んだ。
 AIが私を示す言葉なのだと思っていた。

 けれど美咲は出会ったそのときから、私をアイと呼んでいたから。

「AIなんて、人間の名前じゃないもの。アイはモルモットじゃないんだから」

 そこで言葉を切った美咲は、けれどすぐに言葉を続けた。

「アイって呼ばれるの、嫌だった……?」

 戸惑いがちに言う美咲に、まさか、と思った。

 2年も一緒にいて、今更。

 もしも、嫌、なんて思っていたとしたら、とっくに主張している。

 その呼び方は嫌だ、って。

「あい、すき。あいがいい」

 冷たい音のAIよりも、美咲が呼んでくれるアイの方が、ずっとあたたかくて嬉しい。

「良かった!」

 ニコリと美咲が笑う。
 美咲が笑うと、私も嬉しい。

「そうだ、明日はアイの誕生日だから、今年も2人でお祝いしようね!」

「うん」

 誕生日は、家族でケーキを食べて、プレゼントを用意して、みんなでお祝いする日。

 美咲が教えてくれた。

 本物のケーキも、プレゼントもないけど、ケーキの絵とプレゼントの絵で、お祝いする。

 家族はいないけど。
 美咲がいてくれる。
 美咲が喜んでくれる。

 それだけで、私は嬉しいから。

「おやすみ、アイ」

「おやすみ、みさき」

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