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愛を胸に眠る
05 気がつけば ひとり

 「――!?」

 誰かの声が聞こえた。

 けれど、声の主はどこにもいない。
 目に見えないどこかから、聞こえている。

「――、――!?」

 その声は私に向けられているもの。

 不意に触れた、誰かの手。

 ここがどこなのか、わからなくなる。

 自分がどこにいて、何をしているのか、わからない。

 空気の感じも、鉄の匂いも、向けられた感情も、現実味を帯びていて、どこからが夢なのか、どこまでが夢なのか、わからない。

「―――――!?」

 夢と現実の堺を彷徨っているような、奇妙な感覚の中、うまく聞き取ることのできない声が、まとわりつくように響く。

「――!! ――!!」

 ――コロシテヤル――

 強い感情が蘇る。

 それは私が持った感情ではないけれど、まるで自分のことのような感覚。

 ドクリと心臓が大きく波打つ。

 押し寄せる恐怖に、抗う術が私にはない。

 視界に入ってきた、大きな手。
 自分の小さな手よりも、はるかに大きな大人の手が、私へと伸びていた。

「やああああああああ!!」

 私は叫んでいた。

 頭の中が、真っ白になった。

 ただ、怖くて、押し寄せる恐怖から逃げ出したかった。

 バタバタと騒がしくなる周囲の音も、私を恐怖の中から救い出してくれることはなかった。

 ただ叫んで、逃げ出したくて、自分が何をしているのかわからなかった。

 自分の周囲で、何が起こっているのか知ることもなく、首筋に走ったチクリとした痛みを最後に、私の意識は遠退いていった。

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