鴉天狗と精霊姫

 ひとりの少女が街を歩く。
 それはありふれた日常の1コマ。

 そびえるビルに走り去る自動車。
 信号機が点滅する。

 ――ああ、無理だ。

 諦めた少女は足を止めた。

 横断歩道の先には、赤い光を放つ信号機。

 立ち止まった歩行者を置いて、自動車が走り去って行く。

 ――黒。

 ふと、少女の視界の端に黒い何かが映り込んだ。

 それは、布のような。

 ――傘。

 少女は折り畳みの傘が閉じられたのだろうと思った。

 けれど。

 ――カラス。

 そこにいたのは黒い翼を持つカラスだった。

 歩道と車道を隔てる柵に、器用に掴まるカラス。

 じぃ、とカラスを見つめる少女をカラスも見返した。

 そこにはまるで意志でもあるかのように、カラスは少女を観察する。

 ふいに、カラスは少女から目を逸らし正面を見据える。

 カァ、カァ、カァと3度鳴いたカラスの視線の先には少女がひとり。

 赤を放つ信号機に向かって、歩き出そうとしていた少女はカラスに気づいて足を止めた。

 ――まさか。

 少女には見えていた。

 カラスがまるで、赤信号を教えていたように。

 渡ることを咎めていたように。

 いやいや、まさか、まさか。

 信号は、青に変わった。

 少女は少女の日常へと向かって行った。

 ***

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