鴉天狗と精霊姫

「は……? 聞き間違いですか?」

 男は、己の耳を疑い思わず言葉をこぼした。

 目の前にちょこんと座る少女は真剣な眼差しで、もう1度、男に対して同じ言葉を繰り返す。

「聞き間違いではないのです! 街へ行きたいのです! なので、御使いをくださいなのです!」

 繰り返された少女の言葉に、男は決して聞き間違いなどではないことを理解した。

 けれど、少女の要求を「はい、そうですか」と簡単に呑むことはできない。

「そんなことを言われましても、手は足りて」

 やんわりと、「御使いはない」と告げようとした男の言葉を少女は遮った。

「小天狗が言っていたのです! 街へ下りて御使いをして来たのだと! なので私も行って来ます! 御使いをくださいなのです!」

 少女の言葉で、男は理解した。

 生まれてこの方、山を下りたことのない、そもそもそんな発想すら持ち合わせていなかったであろう少女に、要らぬ知識が与えられたのだと。

 男は思わず叫んだ。

「小天狗ーーー!!!」

「ひぃっ!! ごめんなさーいっ!!!」

 *** 続 ***

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